KSTF2018 【講評】紙本明子
紙本明子 -Kamimoto Akiko-
A-1 エイリアンズ「オールドブルー」
未来SFもの。と思いきや実は・・・という展開は珍しくない。のだけれど、ストーリー展開とスピード感、俳優の演技、身体性がもう完全に未来SFを体現していた。俳優4人ともすばらしく運動能力がたかく、ものすごい体力をつかってものすごい汗をかいてもうそれだけで気持ちいい。若いっていいな!と、バカみたいな感想になってしまったけど、まずはそれが一番にくる作品だった。
しかし、ストーリーの部分に少し物足りなさを感じた。
実は主人公の彼は認知症を患ったおじいちゃんで、エイリアンの襲来は彼の頭の中の世界だったと明らかになった時も「え!!!」とはならない。
これはおそらく、主人公を特定の俳優が演じるのではなく、生まれてからおじさんになるまでのシーンを4人の俳優が代わる代わる演じるスタイルをとったことによって、彼の人生に感情移入していなかったからだと思う。
ストーリーをみせることにこだわるのでなく、パフォーマンスをみせるというところは評価もするが、個人的にはストーリーみたい派なので、ちょっと物足りなかった。
また、マイクをつかったパフォーマンスもあまり必然性を感じず、アイデアにとどまってしまったように思う。
A-2 劇団洗濯機「桜散る頃、蝶は舞う」
愛に溺れ、愛を欲し、昔の恋人が忘れられず現代まで半ば怨念のような形で存在している鬼の「帰蝶」と母親の愛に飢えてこれまた怨念のような存在の帰蝶の子ども「雅」、その鬼たちが現代の売れない小説家に出会い、自分たちの話を素晴らしい小説に仕上げてもらえ成仏するというお話。というふうに私は解釈した。
なんというか、ストーリのアイデアは良いのだけれど、アイデアの欲張りすぎ感とあまりリンクしていない感があった。
現代人で売れない小説家の直樹の抱える問題、葛藤(実家の仕事を継ぐか小説家になる夢を追いかけるのか)のシーン、鬼親子の問題のシーン、そして小野篁のシーンがはばらばらなまま終わってしまったという印象だった。
鬼親子のシーンは主に過去にこんなことがありました。という回想であり、今起こってることではないので、鬼たちは現代にきて何してるんだろう。暇してるのかな?みたいな感じになってしまった。直樹と帰蝶の関係にもう少し変化があればよかったのかもしれない。
演技は一種独特の雰囲気があり俳優は強く印象に残った。脚本をさらにブラッシュアップさせて再演をしてほしい。
A-3 ポゴラジオ%「えらび」
出演団体の中でもっともシンプルなお芝居だった。そのシンプルさ故に、作・演出・主演の和田見さんの気持ち悪さ(褒めています)が溢れ出てしまっている。
喪服姿の主人公が登場。幼い頃に自分を捨てた母親と久しぶりの再会のシーン、そして自分が父親として会うこともできず存在としても認識されず十数年離れて暮らす娘(本当なのか彼の妄想なのかちょっとわからないが)へのビデオメッセージをひたすら撮影するという2つのシーンで構成されている。
ひたすら娘に語りかけるのだけれど、何が言いたいのかわからないというか怖い。
「ちょっとまって!そんなの撮っても見てもらえないよ!」と心の中で私は叫んでいた。
あきらかにバランスが崩れてしまっている主人公が、めちゃくちゃ普通さを装っている。
客観的な視点は客席からのみ。
舞台には彼の世界がひたすら広がっていくのだけれど虚無感しかなく、ただただ寂しい。
自分の母親に辛辣な言葉をぶつける主人公。それはおそらく、ビデオを見た娘に本人が浴びせられる言葉なのだろう。
和田見さんの世界観が全開しており、絶妙に面白いバランスのお芝居だった。
B-1 劇団ACT「ドグラなマグラ」
シンプルな設定なのだがものすごい複雑怪奇なストーリー。
記憶喪失の主人公が精神病院に入れられてり、事件になんらか関わっているのだが…という探偵ものと思わせつつ、なんとなく私がイメージするアングラ芝居のような奇妙な雰囲気を纏って話が進む。
原作ドグラ ・マグラを読んだことがないので(読んだことがあればかっこよかったのだが)ストーリーはなんともいえない。だからこそ思うのは、演劇はストーリーをしっかりと伝えないといけないものではないということ。
原作をどう解釈し、何をどう表現するのか。というところが作品を作る上でとても大切だと思うのだが、今回の劇団ACTの作品は、舞台にたっている俳優が作品の解釈、理解 に及んでいない。俳優によって理解度の差がある。稽古不足。という印象だった。
この芝居の核と成る部分が何なのかわからない。わかっていたとしてもそれを表現するまでに至っていないのかもしれない。
そのような作品は客も混乱すると思う。私はした。
芝居の雰囲気は他劇団との差別化があり、狙いとしてはとても良かったと思うが、厳しい評価で申し訳ないけれど、作品を上演するまでにもう少し時間が必要だったのではないかと思う。
B-2 コシヒカリのナナピカリ「ヘルツシュプルングラッセルず」
面白いのだけれど、もっとこうしかったのでは…という、ストーリーの構成と生み出されている笑いにズレを感じた。
コメディを正面から取り組んでいて、嬉しなと思いつつも、どういう笑をつくろうとしているのかちょっとまとまっていない印象。
短期的な笑で面白いシーンもあり、笑いも生まれているのだけど、大軸のストーリに推進力がない。
エチュード的でぬるい雰囲気もそれはそれで魅力的なのだけれど、セリフが洗練されないので、余計な情報が多くテンポを崩してしまっていたように思う。
もうちょっと演出的な縛りというか、 オンとオフというか、緊張と緩和というか、ふざけるシーンと必死なシーンというか、そういったシーンの構成が必要なのではないかな。集団で笑いを生み出すには、すごく計算が必要だと思う。漫才とか落語とかコントとかってめっちゃくちゃ練習しますやん。そうじゃないと、ただのグダグタな会話になるだけだなと。
うまくいけば、良いインプロ芝居のような爆発的な面白さが生まれるのだろうが、学生演劇でそれをするのは博打だなと思う。
新ユニットということだが、俳優は皆さんそれぞれ華があり、笑いに貪欲な雰囲気もあり、そこにチャレンジする精神をもっていると思うので、今後「この劇団にしかない空気感と笑い」を期待する。
B-3 ゆり子。「あ、東京。」
どこか懐かしく、でも観たことない。とても理想的な感覚に陥った作品だった。
「東京が近づいてくる」という抽象的な設定を具体的なシーンで見せるスタイルでいっきに「演劇作品」になっている。
特に、主人公はるちゃんとみーくんのラブラブなシーンは一生見ていられるくらい完成度が高い。お母さんのちょっとやばい演技も素晴らしい。特に場転のヒップホップに合わせて踊るシーンの訳のわからなさがとても面白い。前半はとにかく前のめり状態だった。
気になったところとしては、舞台上になぜか大きな白い布が壁にかかっており、その説明がなくそれがずっと気になる。見えていないなことになっているのか?
終盤、その布が舞台を覆うのだけれど、そこに何か写しだされるわけでなく、舞台の視界を遮るだけに留まる。
指を切り落とす。切り落とした指を食べる。という「生っぽさ」を演出したかったのかもしれないけれど、その為に使っている手法が良くないなあと。所々に「これはそういうつもりです。そう見てね。」というようなちょっと雑な演出を感じてしまった。
都合の良い解釈をお客さんに委ねるべきではないと思うので、その辺りは全国学生演劇祭で是非改善してほしい。
C-1 劇団ひととせ「楚々」
タイトルの通り全体的な作品のイメージは清らかで透き通ったような雰囲気だった。
シーンのそれぞれの質は高く、ラーメン屋での会話は4コマ漫画を見ているようなルーティンが気持ちよい。
そのコント的なシーンが、舞台上にずっと置いてあるボックスシャワーの中でシャワーを浴びる女性の影とリンクしていくという展開は面白かった。
主人公の男が犯人なのだろうと思わせる見ている側の偏見をあぶり出していく脚本、演技、演出はとても良い。
複雑なお話なのか?と思わせつつ、とてもすっきりとしたラストが見事だった。
ただ、お芝居の構成がうまくない印象を持った。
特に上演前の演出とその後の女Aの5分ほどつづくモノローグはこの作品を上演するのに必要だったのだろうか?
作品のメッセージ的な部分であるのは間違いないのだが、表現の方法がちょっと直球すぎたように思う。その後につづくシーンとのぶつ切り感 があった。ラストがよかっただけにオープニングの安易さが悔やまれる。
C-2 stereotype「なぞるなぞる」
役者も脚本もそれぞれがお互いを活かしており、信頼感漂う素晴らしい演劇作品だった。
コントになりがちなシーンを物語としてしっかりと表現しており、簡単に笑い走らない抑制の効いたお芝居をしているので、集中してみることができた。もちろん笑いもしっかりと作っている。セリフもなかなかに良い。
最初にここがどこかわからない状況で、なぜか「なぞなぞ」をしている二人の男。
シーンが変わりどうやらその二人の男の高校生時代の話へ飛ぶ。どうやら展開としては、二つのシーンが過去から未来へと、未来から過去へとちょっとづつ近づいて(なぞって)いき、ここがどこなのか?が明らかになっていくというもの。
二人の男が狭いトラックの積荷のようなところに押し込められてしまった原因とは!?というなぞ解きの構成がとにかく面白かった。
個人的に残念な部分としては、オープニングの「世界について語らんとするなにものか」のシーンは劇団ひととせと同じく、ぶつ切り感というか、このシーンいる?感があった。またエンディングの唐突な終わり方も若干モヤモヤしてしまった。
いきなりなぞなぞのシーンからでいいんじゃないか?もしくはエンディングの「だーれだ?」がこの物語最大のなぞなぞであるなら(私はそう思ったのだが)、オープニングにそういう振りがあれば、エンディングがもう少し効いてきたのではないかと思う。
C-3 南極ゴジラ「贋作バック・トゥ・ザ・フューチャー」
15団体中一番のエンターテイメント作品。オープニングのダンスや、音照効果、衣装など限られた条件の中でここまでできますか!という演出。
劇団の色もはっきりとしていて、客席は間違いなく一番の盛り上がり。スター劇団の雰囲気をまとっていた。
ストーリーはタイトルの通り、ほぼ「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のパロディーとなっており、よく言えば安心して楽しめる。悪く言えばサプライズがない。
オリジナルな部分も勿論設定上あるのだが、局所的に入れているという印象であくまでのパロディーだった。
ところが終盤にきて元ネタと大きく変わるエンディングが用意されていたのだが、ここにくるまでのハッピー&コメディタッチな流れから急なバッドエンディング的な流れに、ちょっとついていけない感と終演かとおもいきやそこからのもう一展開に「長いな…。」という印象。
なんというか、「全てが惜しい」。俳優も魅了的であんなにキラキラしてるのに…!
バランスを少し変えるだけで傑作になりそうなのになあ。上演時間もオーバーしてしまって減点。とにかく惜しい作品だった。
D-1 アンプレアブル「繋がりの火」
兄弟と兄の恋人の3人の登場人物の人間関係を「火」をモチーフに描くストレートな人間ドラマだった。
3年前の事件の前後(過去と現在)をシームレスな場面展開でテンポよく見せていく演出で、俳優の技術も見せる作品だった。
それぞれの3人のキャラクターの感情が、揺らいだり、消えかけたり、また灯ったり、爆発したりといった具合に「火」をイメージさせおりよく練られた脚本だと思う。しかし若干説明不足な部分と説明過多な部分があり、話の展開上「?」となってしまう部分ががあり最後までそれが尾を引いてしまった。
演技の部分では、感情が高ぶり大きな声で叫ぶシーンが連発、芝居の質が一本調子になっていたように思う。いわゆるお芝居の山場がどこなのかがはっきりせず、事件前の楽しかった過去と、事件後の辛い現在の2つのシーンの繰り返しが続いていく印象だった。俳優3名の熱演、声量はすばらしかったが、演技と演出にもう一工夫ほしいなあ…。という感想で終わったしまった。
D-2 劇団愉快犯「深海の羊ー燃えよ鉄拳ー」
何がどう面白かったのか、どうにも解説できない。
そういう類の面白さにたまに出会う のだが、まさに劇団愉快犯の作品はそれだった。
すべての会話が洗練されており、息をつく間もなくセリフを言い続ける俳優二人。あっという間の45分だった。
テンポ、俳優の力の抜け具合と二人の相性、脚本・演出の佐々木さんの才能が融合して、舞台上で奇跡が起きていた。
笑いが起こる理由はいろいろあるんだなあと、職人技を観させていただいたような感覚だった。
じゃあなぜ賞を取れなかったのだろう。
これは私もとても考えさせられるポイントだ。そして賞に選べなかったことが悔しくも思う。
面白さにはいろいろな質がある。今回の劇団愉快犯の作品は良くも悪くもストーリーは「どうでもいい」という、喜劇感が全面に出ていた。(だからこそあの奇跡が起きていたと思う。)
しかし、お芝居を見て、自分の中に感情が生まれる、こころが揺れ動く、自分の現実世界にひっかかってくる心理的な揺さぶりは、「面白さ」の重要なポイントだろう。その体験は作品 の印象を強める。
その揺さぶりポイントが一切皆無だったのが今回の劇団愉快犯だ。
しかし、劇団愉快犯には賞なんて必要ない!!学生演劇祭の枠をはずれて違うところにいっちゃった!そんな勢いだった。
賞こそ獲れなかったが、あの観劇体験は私の中にこれからも残り続けるだろう。
D-3 LPOCH「O3」
睡眠障害をもつ主人公が夢と現実を行き来し、なぜこのような状況に陥っているのかが徐々に明らかになっていくストーリー展開で、一人芝居という強みを活かした作家性の強い作品だった。
一人の俳優がいきなり舞台に立たされた設定でスタート、とても不安定な状態。
現実なのか夢なのか、台本があるのか無いのか、この人が誰なのか、誰にも分からない。
消えてしまいそう(消えてしまいたい)な存在の主人公は、タイトル「O3」のような儚さをもって終始舞台にたっていた。
3回の上演で、3本とも、違う設定、キャクラター、ストーリーだったそうで、そんなことしちゃうなんてアーティストだな〜!とか思いつつ、1本作品を観た印象としては、演技、演出が行き届ききっていない印象を感じた。
背中を向けた演技が多く(背中を見せる演技自体がNGなのではなくそれが活かされていない印象)、声が聞き取りにくく、ダイナミックなストーリー展開に欠けており、後半は少し集中力が切れてしまった。
意欲的な作品だと思うので、以降も作品を突き詰めてほしい!
E-1睡眠時間「私が悲しいのは、あなたがわからないから。」
メンヘラのゴスロリ女性 チエが何かの象徴のように舞台上に立っている。他のキャラクターと明らかに異質なのだけれど、何かわからないがとても気になる。
主人公のイツカはとても美人なのだけれど明らかに精神のバランスを崩している。だけど理由がわからない。
ストーリーが進むにつれ、イツカが抱える闇が明らかになっていく。イツカの妹とパートナー(男性)から気にかけられ、守られ、支えられ物語の中でも彼女のことはたくさん語られるのだが問題は解決せず、救われない。
しかし、私はやっぱりゴスロリのチエが気になって仕方がないのだ。なぜ誰も彼女のことを語らないのか?こんなに異質な存在としてここにいるのに。いなくてもいいようなそんな扱いだ。
私が悲しいのは、あなたが語られないから。イツカの話を聞きながら私は彼女に思いを馳せた。
彼女は本当に存在してるの??と途中で疑ったりもした。
舞台上に白い枠で部屋を仕切ることで空間が狭く感じあまり良い効果を生んでいないように感じた。
セリフは感情を表現するものが多く、抽象的なシーンが続いている印象だった。もう少し客観的なストーリー展開が見られると物語としてグッと強くなると思う。
E-2劇団モンジュノ「初恋ミサイル」
「ザ・童貞青春ラブコメティ」というパンフレットの文章を読んで、うむ、こういうのたまにあるよね。と思った。
開演前、舞台上には、ダッチワイフが三体並べられるのを見ながら、やっぱりそうだよね。と思った。
始まってしばらくは、何度も繰り返されてきたであろう「男子の童貞もの演劇」を冷静に見ていた。はずだったのに、後半、気がつけば私は主人公ユウヤの切実な「セックスがしたい!」という思いと、俳優の身を削る演技におもいっきり感動していた。
たった45分の間に、あんなにぼろぼろになれるのか・・・!と。
友人2人も良い。主人公と対照的な存在なのに愛されるキャラクターになっていた。
ストーリー展開のはちゃめちゃさも、コント感を引き出していてストレスなく面白かった。
あんなに魂をけずってもらえると単純に嬉しい。終演後、ありがとう!という感謝の気持ちでいっぱいになった。
まさか賞を狙っているとは思わなかったのだけれど、そういうのも含めて私はとても好きだった。
Eー3 魔法の××らんど「どうしてもなれないあなたとすずのおと」
開演前演出から劇団の個性が全面に出ており客席にも 笑いが生まれていた。
本編は、 深夜ドラマ的なオムニバスということだが、気がつけば3つのコントがリンクしていく。という気持ちの良いストーリー展開。広瀬すずっぽいヒロインが軸となり、3人の主人公のラブストーリーが繰り広げられていく。
広瀬すずっぽい主人公が高校生から大学生になり可愛く変身していく過程と、3つの話の進み方、それぞれ3人の男性と主人公の絡み方に無理がなく脚本もよくできていたと思う。
最終話、完全に脇役と思いきや本作品の一番の要だった的展開がありまして、こういうの好きやわーと思いながらニヤニヤみていた。内容はちょっとというか、かなり切なくて、実は最後は少し泣いてしまった。
ブラが取れなくなる男子の設定は?だったけれど、魔法の一言ですまされたところが少し残念。あれ必要だったのかなあ。
とはいえ、良くも悪くも綺麗にまとまった作品だった。もうちょっとはちゃめちゃなシーンががあってもよかったかもしれない。
0コメント